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嵐山町web博物誌・第1巻「嵐山町の動物」

第4章:河川・池沼と田んぼに見られる主な動物たち

第3節 田んぼ、池沼の動物

1.谷津田の動物

谷津田の写真
谷津田とは、平野部に広がる田んぼと大きく異なり、まわりは小高い林などでおおわれています。大きな機械を入れることの難しい谷津田では、水路やあぜ道なども昔のままの状態で保たれていることが多く、生きものたちにとっては格好の生活場所となっています。しかしながら、現状では休耕や廃田となる田んぼが増えているようです。

 谷津田といえば、最近は“自然の宝庫”として特に注目されている場所です。ゲンジボタルやカエル類、池沼の周囲を飛びまわるトンボ類や水面を泳ぎ回るミズスマシなど、最近ではなかなか見る機会の少なくなった生きものたちが数多く生活しています。現代人の生活には不向きとも思える谷間の小さな田んぼですが、地域の自然を保つ上でたいへん重要な役割を果たしていることが、最近の研究によりわかってきました。幸い、嵐山町にはたくさんの谷津田があります。池沼の数も飛びぬけて多く、周辺の雑木林も荒れてはいますが、各地で健在です。ここでは嵐山町の谷津田で見られる生きものたちについて、その主なものを紹介します。

 
  • ハマダラハルカの写真
    昆虫の中には、春の一時期だけに成虫があらわれる種がいます。ハマダラハルカもその一例です...全文
  • イカリモンガの写真
    ...船のてい泊で使用する「イカリ」の形をした斑紋を持つ、美しいガを発見します。イカリモンガという種で...全文
  • シマヘビの写真 シマヘビは各地でふつうにみられるヘビです。全国での分布もアオダイショウに続いて広く...全文
  • 水面に群れるオタマジャクシの写真 春になると、池沼の水面にたくさんのオタマジャクシが群れているのを見かけます。これはアズマヒキガエルなどの幼生です。
  • 昔ながらの用水の写真 平野部の水田では耕地整理により、ほとんどがコンクリートのU字溝に代わりましたが、谷津田ではいまだに昔ながらの用水が残っています。こうした場所にはゲンジボタルやトウキョウサンショウウオなどが見られることも。
  • ミドリシジミの写真
    ミドリシジミは湿地のハンノキ林にだけ見られ、幼虫はこの葉を食べます。朝夕にはハンノキのこずえを...全文
  • サラサヤンマの写真
    サラサヤンマの“サラサ”とは「更紗もよう」のことで、成虫の黄色い斑紋から付けられた名前です...全文
 
谷津田のようす

 丘陵や台地では上部から水が湧き出し、その流れにより長い年月を経て小さな谷が出来ます。この谷間に田んぼをつくり、上部の湧水をせきとめて池沼(溜め池)としたのが谷津田の基本構造です。さらに周囲の丘陵には雑木林をつくり、場合によっては平らな場所に畑を耕したりもしています。いろいろな環境要素がコンパクトにまとまり、同様の谷津田がたくさんつくられることで、変化に富んだ自然環境を生み出してきたのです。
谷津田の様子のイラスト

トウキョウサンショウウオ

トウキョウサンショウウオの卵のうの写真
日陰の水たまりに産み付けられたトウキョウサンショウウオの卵のう。1匹のメスが産むのはたったの1対です。産みたては細いひも状ですが...全文

 春、谷津田の水たまりで、バナナのような形をしたものが落ちているのを見たことがありますか?これはトウキョウサンショウウオが産み落とした卵のうです。卵のうは2つでひと組となっており、多いときには一ヵ所の水溜りに10対くらい見られることもあります。サンショウウオというとすぐに思い浮かぶのは、体長が1メートルにもなる国指定天然記念物のオオサンショウウオですが、トウキョウサンショウウオはずっと小さく、トカゲ程度の大きさです。丘陵の谷津田を生活の場としており、池沼や田んぼなどの水たまりに、2月から3月ごろ産卵のため現れます。それ以外の時期は水辺の地中や岩のすき間などに潜んでいるようです。かれらは谷津田のように周囲を林に囲まれた水辺がないと生きてゆけないので、昔にくらべてずいぶんとその数も減ってしまいました。

谷津田の写真 七郷地区のトウキョウサンショウウオが見られる谷津田。早春、用水路には産み出された卵のうが見られます。県内では、谷津田の多い比企丘陵を中心に分布し、平野部や山岳地帯には見られません。

トウキョウサンショウウオの写真
産卵のため、水辺に這い出してきたトウキョウサンショウウオのメス成体。体長は大きくても10センチメートル...全文

 
  • 嵐山町内でのトウキョウサンショウウオの分布
    嵐山町内でのトウキョウサンショウウオの分布地図 黄色の部分が嵐山町内でトウキョウサンショウウオの確認された地域です。
  • トウキョウサンショウウオの幼生の写真
    呼吸のためのエラが飛び出しているのは幼生です。サンショウウオの仲間は幼生期を水の中で過ごし...全文
 
COLUMN
縄文土器に描かれたサンショウウオ

 サンショウウオは、昔から人々に親しまれてきた動物のひとつです。その証拠が縄文土器の模様にも現れています。西関東から甲信地方あたりで出土する縄文中期の土器には、サンショウウオをモチーフにした模様の入ったものが多数出土しています。嵐山町でも大蔵地区の行事免遺跡から同様のものが出土しています。残念ながら、この模様が何のためのものなのかは解かっていません。また、ハコネサンショウウオなどの種は食用にも利用されています。福島県桧枝岐地方の名産として知られる「サンショウウオのくんせい」は特に有名です。サンショウウオの名も“山椒の香りがする魚”という意味だとか。
縄文土器の写真