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第6巻【近世・近代・現代編】- 第5章:社会

第1節:社会基盤・通信・交通

電気・水道

水道の出来る喜び

             平沢・山田こう

 終戦後の民心動揺の時期も去り国民生活も安定の燭光が見え始めたここ数年とみに叫ばれ始めたのが生活改善ののろしでありました。生活改善は非常によいことです。この運動をはばむものは何といっても今の農家経済です。
 衛生的なそして便利な勝手の改善こそ主婦の願って止まないことです。ここに本年度より本村が新農村建設の指定村となり共同給水施設とかいう名目で水道施設が作られることになりました。平沢の主婦たちのいつも苦労しておりましたのは飲料水の不足と運搬の重労働だといはれていました。これがこんどの工事によって完全に追放され解放されることになりました。これが何人かの富裕な家庭だけでなく今まで其の苦労を重ねて来た皆の家庭が文化の恩恵に浴するわけですからほんとによろこばしいことです。この水道施設も簡単に出来たのではありません。幾夜となく世話人の方々が家で会合し夜中の一時二時まで討論研究が行なわれ計画書類の提出から各個人の出資から借入金の問題まで実に細(こま)やかに相談し全員集会にかける準備が次から次からと進められる様子を見て今迄都会の水道を見ていた気持から水道施設の実現される喜ろこびとお骨折下さる方々の苦労への感謝の念とで頭の中は一ぱいです。九月早々工事に着工致し関係農家の一致した気持は作業進行の度合から見ても読みとることが出来ました。一週間位の間に本管の伏込(ふせこみ)から各家庭の勝手元まで水管が伏込まれ蛇口まで取り付られ今残されている水槽工事が終れば勝手口の蛇口を一つひねれば今迄肩で運搬した水と同じ水が自然に流れでると思うとほんとに夢のような気がします。今迄は夕方農作業から帰り疲れた足を引きずりながら遠い人では三十分もかかって起伏した道を肩で水桶をかついで運搬したのだから水の便利な所のものには想像もつかないことなのです。
 その苦労をした者であればこそ喜びも倍したものなのです。こうして出来上りました暁には今迄水の運搬についやした労力を農作業にふりむけてまたせいいっぱい働きたいものです。

菅谷地区婦人会『つどい』創刊号 1958年(昭和33)11月
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