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嵐山町web博物誌・第1巻「嵐山町の動物」

第2章:森や林の主な動物たち

第3節:山沿いの動物

1.尾根沿いに残る照葉樹林とそこに生きる動物

遠山のオオシイの写真
 遠山地区には、山の尾根にそって、スダジイを主体とした照葉樹林が残されています。ここでは、他ではあまりお目にかかれない貴重な生きものたちが見られ、林床に積もった落ち葉をふるってみると、フジヤマダルマアリヅカムシやキボシアトキリゴミムシ、アツブタガイなど、小さな動物たちを確認することができます。
 アツブタガイは関東地方では群馬県の南西部から埼玉県の北西部にかけて見つかっているだけで、局地的な分布を示す陸貝として注目されています。埼玉県でアツブタガイが見つかったのは1973年、児玉町(現・本庄市)の金鑚神社で初めて記録されました。その後の調査で、県内では上武山地から寄居町、江南町(現・熊谷市)さらに小川町で見つかり、今回の博物誌の調査により嵐山町遠山地区などでも確認されました。

 
 

フジヤマダルマアリヅカムシの写真
フジヤマダルマアリヅカムシはとても小さく顕微鏡でなければ...全文

キボシアトキリゴミムシの写真
キボシアトキリゴミムシは鎌形地区の塩山や小川町下里地区の...全文

 

 照葉樹林にすむ動物は、林床にだけいるのではありません。若い葉のついた枝には、また違ったものがいろいろと見られます。中でも特におもしろいのがアザミウマという虫です。シイの葉が丸くゆがんでいるのは、この虫がつくった虫こぶのようなものです。中をのぞくと、たくさんの黒い虫がじっとしているのを見ることができます。良好な環境の照葉樹林にのみ生息する種類です。

  • シイオナガクダアザミウマの写真 シイの葉についているシイオナガクダアザミウマの成虫。実際にはとても小さいのですが、大きく拡大してみると、まるで全身がよろいに包まれたかのようです。長い尾のような部分は、振りまわして戦う時に使います。良く見ると、すみのほうに1頭だけ尾の短い個体がいますが、これはフウトウカズラヤドリクダアザミウマという、同居している別の種です。
  • シイオナガクダアザミウマの虫こぶの写真 スダジイの若い葉を巻いたようなシイオナガクダアザミウマの虫こぶ(ゴール)。中にはアザミウマがたくさん入っています。埼玉県ではこれまで未発見で、嵐山町遠山地区からはじめて見つかりましたが、鳩山町や小川町などでも確認されました。
  • シイオナガクダアザミウマの幼虫の写真 シイオナガクダアザミウマの幼虫は、全体が白色で、体の中央がわずかに赤味がかっています。成虫に混ざり、ゴールの中に見られます。
 

アラカシの日溜りの写真 照葉樹林にはシイ以外にも、アラカシやタブノキなど独特の樹木が多く見られます。アラカシと共に見られるムラサキシジミは、幼虫がアラカシの新芽を食べ、成虫もその付近で活動し、青紫色の美しいハネが木の枝で“キラリ”と光るのを目にします。また、一年中葉をつけたままのアラカシは、その枝をたたいてみると、冬でも小さな虫たちがたくさん見られます。

ムラサキシジミの写真 アラカシの周辺を飛ぶムラサキシジミは、照葉樹林に特有のチョウで、成虫で越冬します。ハネの表は青紫色ですが、裏は薄茶色で落ち葉にそっくりで、とまるとどこにいるのかわからなくなってしまいます。かつてはあまり多くありませんでしたが、近年では嵐山町周辺でもふつうに見られるようになりました。

ムクノキトガリキジラミの写真 ムクノキトガリキジラミは真冬に多く見られる、小さなセミに似た昆虫です。陽だまりのアラカシを探すと、葉の表面や芽についている成虫が見つかります。近年になって新種として発表された種ですが、その際に指定された基準標本には菅谷館跡で得られたものも含まれています。

キボシアトキリゴミムシの写真 ムラサキシジミの幼虫は、アリの仲間と密接な関係にあります。アラカシの新芽を食べるわらじ型の幼虫は、甘い蜜をアリに与える代わりに、アリは幼虫を外敵から守っています。
(写真提供:杉田正之氏)